歌仙『山のくじらと海のいのしし』の巻
夏生忌(村野夏生宗匠追悼連句)
捌・坂手 手留
オ 木犀のこぼれ落ちたる寂光土 市川 千年
たまゆらの声雁去りし闇 川野 蓼艸
同時代走りつづけて水澄みし 篠見 那智
上がり框に団扇捨ておく 小池 舞
月昇るアヴァンギャルドを朱に染めて 瀬間 文乃
あり余りたる知の忿怒 喝! 坂手 手留
ウ ぞうさんを追いかけてゆく夏野原 ほしおさなえ
大統領に届くマンゴー 葛城 軽天
イエスマンイエスウーマン日本幸ふ あんの透子
炎に巻かれ影の抱き合ふ 軽天
恋文を貝殻に入れ蓋をする 蓼艸
耳朶に残れる汐の音の美(は)し 舞
存念を問はれてをりき寒満月 那智
スノーチェーンの鎖切断 文乃
とき放つサソリピラニアイグアナも 千年
霞ヶ関に軍靴再び 軽天
しんとして透けてゆきます花のなか さなえ
ブラックジャックによろしくと四月馬鹿 透子
ナオ 物干してふり向けばほら山笑ふ 舞
水面高きニューオーリンズ 那智
傍らに海軍航空兵たりし夫 仝
くだらぬ思想針で突き刺せ 軽天
緊急に天使新聞発刊す 文乃
うなづくばかり祖母は縁側 仝
溶けだした二人地球の熱となる 軽天
硝子体剥離ボクサーの愛 手留
病みそめし『山のくじらと海のいのしし』 那智
しほさゐをききまどろんでゐる さなえ
月明の熊野三山滝が鳴る 那智
高層階に待つ稲光 千年
ナウ 蓮の実の飛んで沈黙(しじま)を深めたり 文乃
弦きしみゐる風のうらがは 蓼艸
地震(なゐ)来ると地下の鯰の騒ぎたち 透子
小半(こなから)酒を舐め舐め生きる 舞
亡き人と夢中落花に語らひて 透子
ヒポポタマスのおぼろおぼろに 文乃
(首尾・平成17年10月22日 於・西荻窪三ツ矢酒店)
※『山のくじらと海のいのしし』……村野夏生氏の書かれた童話作品。
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