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2006年4月29日 (土)

魔法使いブラン~巨大いん石衝突を回避せよ!!の巻~第3回

 タロウが家に帰って手を洗うと、真っ先に行くのは台所です。戸棚から、ヒーローの絵が入ったお気に入りのグラスを取り出し、冷蔵庫を開けます。そして牛乳を取り出して、グラスに注ぎながら、途中で一口飲み、おいしさを確認したら、なみなみとグラスに注ぎ、牛乳パックを冷蔵庫へとしまいました。
 グラスに注いだ牛乳を飲みつつリビングに行くと、パパが何やら深刻な顔をしながら、テレビをじっと見つめていました。ニュースを見ているのです。ニュースを見ている時のパパはたいてい真剣な顔をしている場合が多いのですが、今日は一段と厳しい表情をしていました。腕を組み、眉の間にしわを寄せ、口は固く閉ざされたまま、リビングに入ってきたタロウにも気づかないほどテレビのニュースにくぎづけになっています。
 テレビ画面にはモンド村の地図が大きく映し出されていました。そのちょうど真ん中辺に大きな×印がつけられています。タロウには、何がなんだかさっぱりわかりませんでした。
 タロウはパパに、
「何のニュース?」
 と聞きました。
 するとパパは、やはりタロウの存在に気がついていなかったらしく、少しびっくりした様子で振り返りました。しかし、すぐに元の深刻な表情になると、
「モンド村に巨大いん石が落ちてくるらしい」
 青ざめた顔で言いました。
「へえ~、モンド村に巨大いん石が……」
 言いながら、タロウは牛乳を口に含みますが……。
 次の瞬間、口の中の牛乳を勢いよく全部吹き出してしまいます。
「ええっ!? それじゃモンド村はどうなっちゃうの?! みんなはどうなっちゃうの?!


 翌朝から、あわただしい集団避難が始まりました。洋服、タオル、缶づめ、貴重品……人々は皆、両手いっぱいに持てるだけの荷物を持ち、田舎に親戚のある家族は、その親戚の家に、それ以外の家族はモンド村の周辺の町や村に行きました。
 タロウの家族は、隣町「ボワザン」にやって来ました。この町の小学校の体育館に避難するよう、自治体の指示があったからです。
 体育館の中は、同じように避難してきた大勢のモンド村住民でひしめき合っていました。皆、体育館内に敷かれた青いビニールシートの上の思い思いの場所に座りながら、口々に不安や恐れを語り合い、ざわめいています。
 タロウは人々の不安げな顔を見渡しているうちに、その中に見知った顔を見つけました。
 ボブでした。タロウはビニールシート上にわずかに残されている「青」の部分を踏みながら、ボブのところへかけつけました。
「ボブ!」
 呼びかけられて、ボブが振り向きます。
「なんだタロウも来てたのか。チェンもキャスも来てるぜ」


 体育館内の喧噪の中では話がしづらかったので、タロウとボブ、チェン、キャスの四人は、体育館を出て、校舎の裏へと移動しました。
「校庭に何を作っていたんだろう?」
 タロウが他の三人の誰にという風にでもなく言いました。ここに来る時に通りかかった校庭では、大勢の大工さんたちが大急ぎで何かを建てていました。棟梁らしきおじさんが、声を荒げて、いろんな方向に向かって指示を飛ばしているのが、風に乗ってここまで聞こえてきます。
「仮設住宅さ」
 答えたのは、みんなの中で一番頭の良いチェンでした。
「カセツジュウタク?」
 ボブが、わけがわからない、というような顔をしました。
「三日後には直径一キロのいん石が落ちてきて、モンド村は跡形もなく消えちゃうんだ。住む家がなくなっちゃったら、みんな困るだろ? だから、政府があちこちの空き地に急ピッチで仮設住宅を建ててるんだよ」
 全員、しばらく声を失ってしまいました。
 巨大いん石がモンド村を壊してしまう、という恐ろしい現実をあらためて実感してしまったのです。
 うつむいたまま、まるで地面に話しかけるようにして、キャスが口を開きます。
「ママがおばあちゃんの形見だって言って、パールのネックレスを持ってきてたわ。パパも先祖伝来のかけじくを大事そうにかかえてた。人間って、こういう時は一番大切な宝物を持って避難するんだな、って思ったの。でもね……」
 キャスの声が、ふるえはじめました。
「でもね……私の一番の宝物は、去年も一昨年も、その前の年も、私の誕生日にパパが私の身長を測ってつけてくれた、家の柱のキズなの。ママがクッキーの焼き方を教えてくれたキッチンなの。みんなと会えた学校も、エストの森も、みんな私の大切な宝物なのよ!」
 キャスはとうとう両手で顔を覆って泣き出してしまいました。
 タロウの心は悲しみでいっぱいになりました。
(なぜこんなことになったんだろう?)
 と、タロウは考えました。もちろん、巨大いん石が落ちてくることに理由などあるわけはありませんし、考えたからといって、なんの解決にもなるはずはありません。しかし、考えずにはいられませんでした。
「こんな時、魔法が使えたら……」
 タロウは思わずつぶやきました。
 その時、
「どうやら魔法使いの出番みたいだな」
 という、ちょっとナマイキな声がしました。声は、空からでした。
「ノワール!」
 叫んだみんなの声に、にやり、とナマイキな笑顔をうかべると、漆黒の魔法使いは、ふわりと地面に降り立ちました。
「大変なことになったな」
 ノワールは全ての事情を知っている様子でした。
「でも、オレ一人の力じゃどうにもならない。とにかく、ブランのところに行くぞ」
 そう言うとノワールは、
「セ・サンパ!」
 と、タロウたちに魔法をかけ、みんなを連れてエストの森へと飛んでいきました。


       -つづく-

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投稿 Kelly | 2007年5月11日 (金) 20:50

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