魔法使いブラン~巨大いん石衝突を回避せよ!!の巻~第9回
ボブは、かれにとってはやや窮屈な子供用寝袋の中で、その夜何十回目かの寝返りを打ちました。寝袋のせいか、慣れない場所で寝るせいか、どうしても寝場所が落ち着きません。
「眠れないのかい?」
ボブにそう声をかけたのは、隣で、やはり彼女にとっては窮屈な寝袋にくるまって寝ていたボブのママでした。
ボブは何も答えませんでした。
しかし、ボブのママは聞いているのかいないのかわからない息子に対して、さらに話し続けます。
「そりゃあそうだろうねえ。明日の朝には、あんたの生まれ育ったモンドの村が跡形もなく消えちまうってんだからねえ。世の中、何が起こるかわからないもんだよ」
(モンド村が消える?)
ボブは心の中でくり返しました。
(そんなことはさせない。モンド村はオレたちみんなの村だ。いん石だろうが何だろうが、だれにも破壊させない)
ボブは寝袋の中で拳をぎゅっと握りました。
「守ってみせる」
気がつくと、そう声に出していました。
「え? 何だい? 何て言ったんだい?」
ボブのママは、何度も問い返してきます。
ボブは思わずママに背を向けて、ごろん、と転がりました。
「な、なんでもねえよ! 早く寝ろよ!」
ボブは寝袋の中の温度が、少し高くなってくるのを感じていました。
キャスの一家は全員、まだ起きていました。
「今夜は眠れないだろう。だからみんなで好きなだけおしゃべりをしよう。どうせ明日も明後日も、会社や学校は休みなんだから」
キャスのパパはそう言うと、キャスとキャスの弟とそれからママに、自分が生まれてからずっと住み続けてきたモンド村での思い出話を熱心に話し続けました。話は後から後から続いて、一晩中とぎれることはありませんでした。
(一番眠れないのはパパなんだわ)
キャスはそう思いました。
学校のうら山の芝生の上で、チェンは両手のひらをまくらにして、星空を見つめていました。静まりかえった夜の空気の中で、木々のざわめきと虫の声だけが、チェンの耳の中に入ってきます。
(明日の「作戦」は本当に成功するのだろうか……?)
何か重大な欠陥があるのではないだろうか、という思いがずっと頭から離れず、かれは眠ることができませんでした。
直径一キロメートルもの巨大いん石をはね返すという、人類史上例のない行為を、かれらは明日実行しようとしているのです。
失敗は許されませんでした。
(失敗したら……)
みんな死んでしまうだろう。
タロウ、ボブ、キャス、ブラン、ノワール……チェンの頭の中に次々と仲間たちの顔が浮かんできました。みんな、チェンに微笑みかけてきます。
(そうだ……)
チェンは寝たままの姿勢で空中に右手を伸ばすと、夜空に輝く星をつかむようにして、強く拳を握りしめました。
(あいつらはオレの「作戦」を信じて一緒に戦ってくれるんだ。あいつらのためにも……明日の作戦は絶対に成功させてやる!)
月明かりの差す小学校の屋上に、タロウはたたずんでいました。フェンス越しに、かれは東の方向を見つめました。そこにはかれがつい一昨日まで生活していたモンド村があるのですが、村人全員が避難したため、明かりという明かりが一つもついておらず、村全体が黒々とした影に飲み込まれていました。
あるいは、いん石はもうすでに衝突してしまっていて、あそこには月の光の侵入さえ許さない巨大な穴が開いているだけなのかもしれない。
そんな風に思わせる光景でした。
(消滅させるものか……)
そんな思いが、タロウの胸一杯にこみ上げてきました。
「眠れないのね」
不意に背後から女性の声がしました。
タロウのママでした。
屋上は「立入禁止」になっているはずでした。普段は信号を無視することさえ許さないママが、自分でルールを破って屋上に来るなんて……。
(ぼくをしかりに来たのだろうか?)
一瞬、そんな考えが頭をよぎりました。
「明日、ブランちゃんたちと『何か』をするのね? いん石を止めるための『何か』を」
「…………」
タロウは明日の作戦について、他のみんなと同じように、家族には何も言っていませんでした。
しかし、ママは気づいていたのです。自分の息子とその仲間たちが、命をかけても自分たちの村を守ろうとしてることを。
タロウのママは、悲しそうな目はしていませんでした。タロウや仲間たちと同じ、「何かを決意した者の目」をしています。
「ママは何も言わないわ。だって、あなたは男の子だものね」
ママはタロウにほほえみかけながらかれを引き寄せ、抱きしめました。
「小学生の息子が危険なことをしようとしているのに、こんなことを言う母親はいないかもしれないけど……」
ママはいっそう強くタロウを抱きしめます。
「頑張って。私はあなたを信じてるから」
そう言うと、ママは避難所へと帰っていきました。
ママから胸一杯の勇気をもらったタロウは、空をにらみました。皓々たる月の隣に、それよりも少し小さく、しかし月をあざ笑うかのように強い輝きを放っている星があります。それは明日、村へと落ちてくるいん石です。
(絶対にはね返してやる!)
決意を胸に、タロウもまた避難所へと戻りました。
避難所では、タロウの妹と、先に帰ったママがすでに寝息を立てていました。
ママのほおに涙の跡があることに、タロウは気がつきませんでした。
-つづく-
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