魔法使いブラン~巨大いん石衝突を回避せよ!!の巻~第10回
とても風が強い朝でした。いん石がとうとう大気圏に突入したため、もうその影響が出ているのです。
サッカーボールほどの大きさになっているいん石は、もはや太陽の光の中でさえ、その輝きを失うことはなく、人々の頭上を不安と混乱でおさえつけているようでした。
タロウたちは、ブランたちが「お魚さん救出大作戦」を決行している間にエスト湖の湖岸にみんなで掘っておいた大きな穴の中に潜んでいました。そこは、いん石を迎え撃つための前線基地でした。
ブランは先ほどからずっと上空のいん石を見つめていましたが、やがてゆっくりとタロウたちの方へと振り返りました。
「いいかい、みんな。魔法は『心のチカラ』なんだ。みんな、ぼくにチカラを貸してくれ。みんなの強い心が一つになれば、きっといん石をはね返すことができるから」
全員、ブランの目を見てうなづきました。
そのころ、ノワールとグリ先生は、落下してくるいん石をめざして、はるか上空にいました。いん石に魔法をかけるため、ノワールがグリ先生を背中に乗せて、空を飛んでいるのです。
いん石に近づけば近づくほど風は荒れ、空気との摩擦熱によって燃えさかるいん石の熱気で、まるでオーブントースターの中にいるような暑さになっています。
「先生、これ以上近づくのは無理だ」
ノワールは唇をかみしめながら言いました。事実、荒れ狂う風と熱気の中で、ノワールは今にも魔法の制御を失って、墜落しそうな状態でした。
「やむをえんじゃろう」
グリ先生は、じっといん石を見据えました。
「ここから魔法をかける」
ノワールとグリ先生のいる位置からいん石までは、まだ百メートルほどありそうでした。
ノワールは不安そうな表情でグリ先生の顔をうかがいました。なぜなら、魔法使いとしてはまだ若いノワールは、今までこんなに遠くから魔法をかけたことがなかったからです。
しかし、グリ先生は、
「ここからいん石を止める」
と、言い放ちました。
グリ先生は目を閉じると、ゆっくりと、大きくひとつ呼吸をしました。
そして一気に目を見開くと、
「ケル・ベル・ファム!」
全魔法力を込め、いん石に向かって思い切り杖をふりました。
強大な魔法力が、ピンク色の光の帯となって一直線に空を駆け、一瞬のうちにいん石を包み込みました。
まるでビデオを一時停止したみたいに、いん石は音もなくその場に止まりました。いん石を包む炎さえ、少しも揺らめくことなく、同じ形のまま固まっています。
(1、2、3、4……)
グリ先生は心の中で数をかぞえ始めました。「作戦」では、小学校の校庭の十倍くらいはありそうな、あの巨大ないん石を、二十秒も止めなくはいけないのです。
(7、8、9、10……)
想像を絶するほどの疲労が、グリ先生に襲いかかってきます。短い時間の中でこれほど大量の魔法力を持続的に使うのは、千年以上の人生の中でも初めてでした。
(13、14、15……)
グリ先生の呼吸が、ぜえぜえと荒くなってきました。極度の疲労感は、もはや苦痛へと変わっていました。
「先生! 頑張ってくれ! あと少しだ! オレの『心のチカラ』も送るから!」
暴風と熱気の中で飛行を安定させるだけでも精一杯のノワールは、何のためらいもなく「セ・サンパ」の魔法を解除しました。グリ先生に「心のチカラ」を送ることだけに専念するためです。ノワールとグリ先生は急速に落下しはじめました。地上の構造物が見る見るうちに大きくなってゆく中、かれは先生のために強く祈りました。
(18、19、20!)
グリ先生は、とうとう巨大いん石を二十秒間止めることに成功しました。
限界を超える魔法力を使ったグリ先生とノワールは、同時に意識を失ってしまいました。
それぞれの役目を果たした二人は、重力にまかせるままに大地へと落下していきました。
-つづく-
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